2012年5月21日:

■中原淳編著 『企業内人材育成入門』

企業内人材育成入門

-人を育てる心理・教育学の基本理論を学ぶ-

編集者:中原淳編
著者:荒木敦子/北村士朗/長岡健/橋本諭

出版社:ダイヤモンド社

発行日:2006年10月19日

「もはや、人材育成は『理論的な裏付けなしに誰もが語れるもの』ではない」。本書のこの一文に啓発(挑発?)されて、私は大学院で教育学を学び直すことにしました。

企業の人材育成の参考にするために、教育工学(1)のあらましを知ろうと思うのなら、本書はうってつけの一冊です。教育工学、その基礎学問である学習理論、心理学、教育方法論、成人教育論などの書籍は多数ありますが、これらは、これまで日本国内においては『生涯学習』という枠組みで語られることはあっても、『企業内人材育成』という枠組みで語られることはほとんどありませんでした。そういう意味では、企業内人材育成と教育学を結びつけた初めての本だといえるでしょう。

その上に、本書は類書にありがちな、理論を並べて紹介する形式ではなく、仮想の人事担当者を主人公に設定してストーリー仕立てで、理論の実務への活かし方を学べるように工夫して書かれています。本書の発行から5年が経ちますが、いまだに類書は目にしたことはありません。

ただし、この類の本は著名な理論がわかりやすく書かれているので、読んだだけで自分が秘法を知ったような錯覚に陥りやすいのが欠点かもしれません。学習も、教育も、複雑な営みです。

ただし、この類の本は著名な理論がわかりやすく書かれているので、読んだだけで自分が秘法を知ったような錯覚に陥りやすいのが欠点かもしれません。学習も、教育も、複雑な営みです。当たり前のことながら、すべての状況、課題、対象者に通用する理論やノウハウはありません。そのことを再認識できる本でもあります。

 

(1)     教育工学とは、「教育改善のための理論、方法、環境設定に関する研究開発を行い、実践に貢献する学際的な研究分野であり、教育の効果あるいは効率を高めるためのさまざまな工夫を具体的に実現し、成果を上げる技術を、開発し、体系化する学である」と定義されている。(日本教育工学会編著、『教育工学辞典』、実業出版株式会社、2000年)